3話

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ーーーーーー 「……い。……おい」 「……」 「おい」 「……」 「おいっ!」 「え?」  日本史の授業が終わったあと、隣から何か言われているな、と思って振り向くと、秋吉がすごい形相でこちらを睨んでいた。  まったく気づいていなかったが、どうやら何度も呼ばれていたらしい。 「うぜえっつってんだよ、お前。部外者のくせに余計な口出ししやがって」  一瞬なにを言われているのかわからなかったが、「あんな女、オレ一人で何とかなったのに」と言われてようやく察した。  さっきの一件、朝陽が途中で割って入ったことが相当気に入らなかったらしい。 「ああ、そのことか」  朝陽の声があまりに冷静で、調子が狂ったのだろう。  秋吉は言葉に詰まったように見えた。 「べつに君をかばったわけじゃないから、安心して」 「は」  秋吉のプライドが傷つこうが、はっきり言って、朝陽にとっては、そんなことはどうでもよかった。  わけがわからないのか、秋吉は目を丸くしている。 「まさかあんなふうに生徒に嫌がらせをするなんて……」 「はあ?」 「あの人、授業でやってない範囲外の問題をわざと君に出したんだ」  授業で教えてもいない範囲の問題を出すなんて、教師としてどうかしているし、あんなのははっきりいってイジメだ。  しかも自分の仕事を利用して、一人の生徒をさらし者にするなんて。プライドの欠片もない、卑怯なやり方だ。  こんなことを秋吉に伝えるつもりはなかったが、朝陽はあまりの怒りからすべて訴えてしまった。  訴えたのに。  秋吉はただ一言、いかにもどうでもいいような口調で 「へえ……」  と言っただけだった。 「へえ、って……!君、自分がバカにされてるって腹が立たないの?」 「……そもそも簡単な問題出されたって解けないし」 「そういう問題じゃない!」  さっきまでの怒りの形相はどこへいったのやら、秋吉はケロッとした顔をしている。  いつもはしょうもない事でイライラしているくせに、なぜこんなにときに腹が立たないのか、とにかく水川には理解できない。 「あーもう……」  なんて学校だろう。なんて教師だろう。  そしてなんて無頓着な生徒だろう。  さらに怒りが増しそうだった。  その時だ。  秋吉が窓の外を眺めながら、静かに言った。 「じゃあ今度は教えろよ」 「え?」 「お前、答えわかってたんだろ。次は、あいつに一発ギャフンと言わせたい。答えを教えろ」  秋吉はほくそ笑む。まるで獲物を狩る前の、ぞっとするような鋭い目がこちらを見ていた。 「お前もオレも復讐できる。一石二鳥だろ」
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