3話

11/11
前へ
/93ページ
次へ
 秋吉に答えを教える前に、朝陽が口をひらいた。 「新田義貞率いる建武政権残党軍と、斯波高経率いる室町幕府・北朝方の軍勢との間で行われた”金ヶ崎の戦い”です」 「水川くん……」 「いや、こんな細かいところ、教科書に載ってたかなと思って……。少なくとも、まだここまで授業は進んではないですよね。そんな問題を出すのってずるくないのかなって」 「……」 「趣味で聞いてるならどうぞ。 梅松論に記されている戦の名前をすべて答えましょうか? それとも、尊氏が政権を獲得した過程を授業時間をすべて使って語りましょうか。僕、この時代好きで中学のころ小説読んでたので 正直、戦国時代より詳しい自信がありますよ」 「な……」    教師はそれまで秋吉にだけ向けていた怒りの目を、朝陽のほうへ向けた。  ふだんなら、こんな顔を教師に向けられたら、これ以上ないくらい慌てるだろう。  だけど、こちら側が正しい、という自信が、朝陽を弱気にはさせなかった。 「やめましょう。テストも近いし、普通に授業を聞きたい人もいると思いますから」  日本史の教師が、再び授業を再開する。  朝陽もこれ以上は追い詰めなかった。  日本史の教師がやりすぎなのは間違いないが、そもそもの原因は、秋吉の素行の悪さにある。   途中で口を出したことで、どうせまた秋吉に『余計なことしやがって』と罵られることだろうと思っていたが違った。 「かっけー」  急にこちらを見て何を言うのかと思えば、秋吉は感心したようにそう言った。  その顔に笑顔も恥じらいもほとんどなかった。 (かっけー……?)    聞き間違いかと思った。  まさか秋吉の口からこんな言葉を聞くことになるなんて。   初めてまともにかけられた言葉だったのに、驚きのあまり反応ができなかった。   しかしあとからどっと嬉しさが込み上げてきて、緩んでしまう口元をなんとか隠して授業を乗り越えるはめになった。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加