4話

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ーーー 「テスト勉強教えるのって得意?」  秋吉は真っ赤にはらした左頬を押さえながら、けだるげにそう言った。 「え?」 「だから勉強」 「は……」  次の日の朝、久しぶりに遅刻せず登校してきたと思えば。  なんだ。一体全体どういうことだ。    朝陽の頭はまるでついていけず、クエスチョンマークが浮かび続ける。  しかしまず驚いたのは、その顔だ。  左の頬が赤く腫れ上がっている。  ケンカでもしたんだろうか。 「おい聞いてんのか」 「あ、うん。……勉強だよね。そりゃ、よく教えていたけど」 「じゃ教えて」 「は」  秋吉の口からあり得ない言葉が飛び出し、思わず大きな声が出る。  すぐさま、生意気に聞こえただろうか、と後悔し萎縮するも、目の前の秋吉はこれっぽっちも気にしている様子はない。 「もうすぐ期末だろ。だから」 「……な、なんで急に」 「んなこと、どうでもいいだろ」  状況がのみ込めずポカンとしていると、「いろいろと緊急事態なんだよ」と秋吉は投げるように言った。  なんだかよくわからないが、彼なりの事情があるらしい。  気にはなったが、これはチャンスだ。  むやみに詮索して気が変わられたほうがまずい。  朝陽は頭に飛び交う疑問をなんとか抑えて、彼に言った。 「……わかった。いいよ。だけどそのかわり」 「なに?受講料とかはやめろよ。ただでさえ金欠なんだから」 「そうじゃなくて」 「ん?」 「答えだけ丸暗記とかはなし。僕がやりたいところまで深堀して教える。ーーそれでいい?」  秋吉は目を丸くさせた後、「お前かわってんな」とつぶやいた。
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