4話

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 定期テスト前の2週間、朝陽は放課後付きっきりで秋吉に勉強を教えることになった。  制限時間は1時間半。試験前の勉強時間にしてはやや短いが、それ以上になると朝陽も自分の勉強時間が確保できなくなるし、第一、秋吉が持たない。  1時間半でもギリギリで、集中力が切れれば、秋吉は勝手に帰ってしまう。 「わかんねー。マジわかんねー。なにがなにだって?」 「征夷大将軍だよ、征夷大将軍。源頼朝が征夷大将軍に任命されて……」 「なにそれ」  何を言ってもぽかんとした顔をしている秋吉に、水川は歴史の教科書を片手に解説する。  前の学校でもクラスメイトや、近所の年下の友達に勉強を教えていた。  しかし、秋吉に勉強を教えるのは、これまでで一番手ごわかった。  こんなことも知らないのか、というのが当たり前。  歴史で言えば『卑弥呼』すら何時代の人物かを知らないし、現代文でいえば小学生で習うような漢字の読み方さえ知らなかった。  聞けば、今までまともに勉強したことがないらしい。  この前、「どんな問題が来ても答えられない」と何のプライドもなく言い放ったわけが、少し理解できるような気がした。  朝陽からすると、なにをすればここまで何も頭に刻むことなく生きてこれたのだろう、と不思議になったが、それを口に出したところで、秋吉の学力が伸びるわけではない。
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