4話

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ーーー 「こんな時間まで友達に教えてたの?」  晩ごはんの最中、母親が心配そうに口をひらいた。  顔を見なくても、彼女の言いたいことは朝陽には十分察することができた。  責められているのを承知で、目をそらしながら、うん、とにごすように返事をした。 「友達の成績を心配して手助けするのはいいことよ。だけど、なんていうか、あまり友達を優先しすぎるのも良くないとお母さんは思う」 「うん」 「時間は限りがあるんだから。睡眠時間は一番削っちゃだめよ」 「わかってる。……大丈夫だよ。テスト勉強はもうとっくに終わってるから」  朝陽はテストがあろうとなかろうと、一年365日机に向かっている。  正月もクリスマスも関係なければ、冠婚葬祭も関係ない。  だから朝陽はまだ高校2年生だが、3年生の学習範囲まで勉強済みだ。  今回のテスト範囲なんて、ずいぶん前に自習で頭に入っている。  やることといえば、寝る前に少し復習するだけだ。    朝陽の言葉を聞いても、母は安堵はしていない様子だったが、それ以上なにか言うことはなかった。  もともとそこまで口うるさいタイプではないし、今まで結果を出しているのもあって、不安ながらも息子の意見を尊重したのだろう。 (こんなに勉強してるのに……)  朝陽のなかに、言いようのないモヤモヤがあふれそうになったが、すぐさまその感情に蓋をした。  その時、母親が思い出したように、あ、と言った。 「そうだ。雄一君から手紙が届いてたわよ」 「え! ほんとに?」  それまでどんよりと薄暗くにごっていた朝陽の心に、ぱっとわずかな希望の光が差し込んだ。
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