5話

3/5
前へ
/102ページ
次へ
ーーーーー 「これ、従弟の兄ちゃんが乗ってるスカイライン。マジでかっこいいんだ」  「へえ」  隣の席の秋吉が、見たことないような満面の笑みで話しかけてくる。  朝陽は内心戸惑いつつも、機嫌を害してはいけない、と同じように笑みを返した。  テストがあってからというもの、秋吉とずいぶん距離が近くなったような気がする。   勉強を教えるのは言わずもがな、昼食も一緒にとるようになったり、体育でペアを組む必要があれば一緒になったりと、何かと行動をともにするようになった。  しかも驚いたことに、すべて秋吉のほうが引っ付いてくるのだ。 「新しい型も悪くはないけど、やっぱ昔のかっこよさには敵わないよな。ほら、これ見ろよ」 「……」  が、話は合わない。  車やスポーツ、ゲームなどについて熱く語ってくるのだが、たいてい勉強か本の世界に引きこもっている朝陽には1ミリもわからなかった。  しかし、秋吉はただ自分の話を聞いてほしいだけのようで、気にせずしゃべり続けている。 「で昨日の夜中にさ、スカイラインで山を走ったんだ。そしたらカーブで、マジで谷に落ちかけたんだよ」 「は?」 「つか、何年か前にそれで本当に落ちたんだけど」 「ちょっと待って! 無免許運転はダメだって!」 「バカか。オレは隣に乗ってただけっつの。運転は従兄弟の兄ちゃん」  なんだ。  自分ごとではないのにほっとする。  朝陽自身が規律を守る性格のせいか、ルールに甘い人間を前にするとヒヤヒヤしてしまうのだ。 「……まあ運転経験も、ちょっとはあるけど。家の敷地内とかなら」  秋吉は誇らしげに、にぃっと笑う。朝陽が怒るのをわかっていて、わざとやっているように見えた。 「だめだよ、そんなことしたら!万が一、事故したら……」 「わかってるって。一回しか乗ってないし、敷地内だし」 「そういう問題じゃない! ぜったいに二度と運転しちゃだめだよ! 」 「うるせーなあ。わかってるよ」  秋吉は片手で耳を軽くふさいで、顔をそらす。  声の高さや口調から、本気で機嫌をそこねたわけじゃないことは容易に察した。  あこがれの車に乗ったせいか、どうやら今日はずいぶん機嫌がいいらしい。 「あーあ。さっさと18になって免許取って、好きな車買いてー」  秋吉はそうぼやいた。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加