新しい学校

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「ああ、それは大丈夫です。向こうの学校でもいつも3位以内には入っていたので」  朝陽が言葉を放った瞬間、ただでさえ静かだった教室が、さらにしーんと静まりかえる。  にこやかに微笑んでいた松村までもが、一瞬、笑顔のまま固まったように見えた。 (あれ?)  一体どうしたというのだろう。  さすがに『3位以内』というのは、少々頼りなかったのかもしれない。  ほんとうは正直に『首席』と言いたかったが、さすがに躊躇した。  あくまで自分は地方出身者。  こんな都会の中の都会にある学校のレベルがまだ読めていない段階で、大口を叩いて後で痛い目を見たら、と保険をかけてしまったのだ。  なんとか挽回しないと。  朝陽はクラスメイトたちに、おだやかな笑みを向けた。 「塾にも通っていたし、毎日自主学習もしています。ーーそうだ皆さん。もし勉強でわからないことがあったら教えるので、僕に声をかけてください」  また反応がなかった。  朝陽が無力感に苛まれながら歩き出すと、どこかの誰かが「ブッ」と笑いをもらした。え、と思って振り向くと、教室じゅうで笑いが巻き起こる。 「ぶははははっ」  まるで耳の中を小さな刃物が刺すような、嫌な笑いだった。  小学生のころ、いじめられっ子に対して、虐めっこたちが漏らしていたような類。  高圧的で攻撃的で、弱いものを小馬鹿にするような、あの。 「静かにしろ」ーーと、松村が注意すると、クラスメイトはようやく静まり返る。 「頼もしいじゃないか。期待してるぞ」  松村にうながされ、朝陽はただ機械的に、指示された席についた。    気にしてないふりをするかのように、ふーっと息を吐く。  けれど指先の震えが止まらなかった。  あれほど勇気を出して言ったのに、こんな反応がかえってくるなんて……。  はっきりいって、朝陽は転校なんてしたくなかった。  それを両親の説得に折れ、宮崎からここに来るまで、なんとか自分で自分の背中を押してきたのだ。  転校なんて関係ない。  どこに言っても自分は楽しく生活できる、と。  でも今の反応で、朝陽の目の前は真っ暗になり、将来の希望もほぼ消えかけていた。  朝陽は顔を上げて、ひっそりと教室を見渡す。  これだけの人数がいるのだから、  誰か一人くらい親しくなれるだろう。   たぶん。  いや、きっと……。  向こうでもここでも、同じ『教室』にはかわりはないのに、色彩も何もかも変わってしまった教室を見渡しながら、朝陽はそう自分に言い聞かせた。
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