5話

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「図書館には、持ち出し禁止の本があるんだよ。つまり図書館内では読めるけど貸出できない本。で、そういった貸出できない本を読むのに、図書館が遠いと困るんだ」 「ふーん」 「それに返却期限に縛られるのも大変でさ。本によって読む時間は天と地ほど異なるからね。すると分厚い専門書とかだと、2週間じゃまるで足りない。延長して30日借りれたとしても、ものによっては一冊しか読めないときもあって」  はじめてだった。ここに来て、こんなにも一方的に好きなことを話したのは。  ここに来てから今まで、好きな物事を誰かに話すという行為すらしてこなかったせいか、耐えていたものが一気にあふれだした。  本に関する話題なんて、秋吉は関心を持たない。  それなのに、なにを一方的に、ぺらぺら語っているんだ。  そんな理性に感情は追い付かず、秋吉が聞いていようがいまいがおかまいなしで、言葉は先へ先へと飛び出した。  けれどどういうわけか、秋吉はなぜか黙って聞いていた。  そうして朝陽が一通り話終えたとき、彼が最終的に放ったのは、 「へんなやつ」  という一言。  それも、いつもみたいなバカにするような声音ではなく、面白い生き物を眺めるみたいに軽く笑っていた。    前なら「うぜえ」とトゲのある口調で一刀両断したことだろう。  あるいは途中で席を立つか、机に突っ伏したはずだ。  それなのに。  なんだろう。  それから応えるように、秋吉は話した。  車とか、流行りの音楽とか、朝陽にすればどうでもいいような話を長々と。どうでもいいのに、話せること自体がうれしくて、朝陽は最後まで聞いていた。  考えてみれば彼も、この教室ではずっと一人だったのだ。  しかも自分よりも長い間。  朝陽ほど神経質に悩むことはないにしろ、はけ口の一つくらいは欲しかったのかもしれない。
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