新しい学校

5/8
前へ
/83ページ
次へ
 けれど、現実はそう上手くはいかないものだ。 (前の学校に戻りたい……)  奈貝浜高等学校に転校して一週間。  水川のすべてが変わってしまった。  すでにできている序列。  すでにまとまっているクラスメイト。 そこにひょいと投げ込まれた異質の自分。    異様に仲がよく、まとまりのある集団を見て、初日から嫌な予感はしていたが、一週間経った後、やはり確信した。  完全に、疎外されている。 「あのさ……」 「あ、へんな方言のやつ」  一日中教室にいても、ほとんど誰も話かけてこない。    こちらから話しかけても、話の内容より方言のほうが笑いの的になって、話がから回る。 まるで外国人のような立ち位置だ。  この前は、わざと向こうのイントネーションで「どげんかせんといかん」と話しかけられた。  突っ込みどころは色々あるが、何よりそれは宮崎弁なのに。  一体なにをしくじったのか。  心の強い人間なら、なんとかして輪に入り込めるのだろうが、これまでの幾度とない絶妙なからかいによって、心を痛めつけられていた朝陽は、気づけば自らクラスメイトと距離をとるようになっていた。 「はあ……」 (前の学校に戻りたい……)  前に朝陽が住んでいた地域も、同じだった。  人間関係はつねに排他的で、他所から来た者はなかなかいつかない。  地元で生まれた人間も、開放的で向上心が強い者ほど、進学や就職を機に、福岡や東京に出ていく。  何かの理由で地元に残らざるを得なかった人も、長年の洗脳によって保守的になっていき、より排他的な風習を洗練する人間の一人になる。  あれは田舎とか、地方とか、地域特有のものだろうと思っていたが、こうしてみるとどこも一緒だ。  少ない人間を、狭い小さな箱に長期間詰め込むと、皆、大なり小なり排他的になるのかもしれない。  それが、陸だったり、村だったり、教室だったり、あるいは国だったりするだけで。  外からは簡単に破れない、鉄壁な関係性をもつ彼らを横目で見ながら、朝陽はため息をついた。 (こういうとき、せめて隣の席の人間だけでも話せたらな……)  ちらりと隣を見る。  窓側に面したそこは、この一週間ずっと空席のままだった。  教科書の類が机の中にどっさり残ったままになっているので、たまたま休みなのだろうと思っていたが、  もう一週間だ。  病気か、あるいはここまで長期の休みとなると、本格的な不登校児だろうか。  たしかに前の学校にもいた。クラスのみんなからのけ者にされて、それっきり一度も学校に来ていない生徒。  この席の主もそうなんだろうか。  だとしたら、ついてない。  けれど今の朝陽には、それを誰かに尋ねる相手も、気力もなかった。  それに。  万が一、登校してきたとしても、この村社会の結束がより強固なものになるだけだろう。  そう、諦めていた。 「あっ」  机の端に置いてあった消しゴムが落下し、コロコロと転がっていった。  手を伸ばした、その時だった。  ガラガラガラッ
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加