新しい学校

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「秋吉!やっと来たのか!何度も何度も連絡してたんだぞ!」  入ってきたのは担任の松村だった。 「必要な書類も提出しない!テストにも来ない!そのくせ教科書は全部引き出しに置いてある!」   一週間前、朝陽が転校してきた際、自分を歓迎してくれた唯一の人間。  朝陽にとってはこのクラスのたった一人の味方だ。  しかし今の松村の顔からは、その時の優しげな面影は一切消え失せ、生徒に説教をするときの鬼教師の形相をしていた。 「お前のみたいなやつは、社会で生きていけないからな!」 「うるせーなあ」 「なんだと!」  彼は物凄い勢いで不良に詰め寄り、不良の机に紙の束を叩きつける。 「休んでた分のプリント、全部解いて提出すること!今週中までに!!」  積み重なった苛立ちと苦悩を感じさせる、重く激しい声だった。  なんのプリントだろう、と思って横目でチラリと確認すると、数学や現代文などのさまざまな教科の問題が印刷されていた。  そういえば朝陽も、ついこの前こんなプリントを授業で配られた気がする。すぐさま解いて提出したので、あまり覚えていないが。    それにしても、ここまでの分量はなかった。よほど長期間、学校を休んでいたにちがいない。 「とけませーん。ぜんぜんわかりませーん」   うっとうしそうに目を細め、いかにもバカにしたように男は応えた。    瞬間、松村の逆鱗に触れたのが、わかった。 「なんだと!何日休んだと思ってる!一ヶ月だぞ、一ヶ月!これが仕事だったらクビだ」 「いいだろ。社会勉強だよ」 「なにが”社会勉強”だ。おまえ、K高の生徒たちと昼間っから街をうろちょろしてたの知ってるぞ」 「だから、社会勉強でーす」 「ふざけるな! このままだったら留年してもおかしくないぞ!それを各教科の先生の計らいによって……」 「留年なんてしないっつの。ギリ出席日数足りてるし」  松村は今にも殴りかからんばかりの勢いで、さらに声を張り上げる。  腕と脚に四つの丸太をしこんだような筋肉ムキムキ男に言い寄られると、今まで怒られた経験が少ないゆえか、朝陽はまるで自分まで責められているようで冷や汗が出た。 (ていうか今の時代、こんな熱血教師がまだいたのか。)  だが金髪の不良はものもろともせず、涼しい顔で応戦する。  それがさらに松村の心を苛立たせたのだろう。 「じゃあ退学だ!」  30枚ほどのプリントを机に置いて、担任は出ていった。   (なんだ、この人……)
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