2話

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2話

「秋吉くん。……秋吉くん」 授業中、寝ている秋吉に教師が名前を呼び起こす。 「……あん?」 「29ページの2行目を立って朗読してください」 「うるせーな」  秋吉翔也。  それが隣の席のヤンキーの名前であり、朝陽とはまた別の意味でクラスからつまはじきにされている男の名前だった。    授業中はかまわずいびきをかいて寝るし、スマホも平気で触れば、いつの間にか姿を消しているときもある。  まったくやりたい放題だ。  先生の説教など聞いちゃいないし、そもそも今の時代そこまで厳格に叱りつける教師もいなかった。唯一いるとすれば、あの担任の松村くらいだろう。  しかしその松村も、時代の流れと自らの教師生命を照らし合わせた結果、あまり厳しく言えないようで、あれ以来、ほとんど秋吉にかまっていない。  まあ第一は、これでもかというほど言うことをきかない秋吉に諦観しているのだろうが。  そんなわけで秋吉は、朝陽の救世主になるどころか、むしろさらに悩みの種になった。 (どうしよう……)  そのとき、脇腹にかすかなしびれにような、鈍い痛みが走る。 (いたたた………)  転校してからというもの、朝陽はほとんど毎朝、腹の鈍痛に悩まされていた。  病院で診断を受けたわけではないが、登校前や、授業中しか起こらないことをふまえると、精神的ストレスから来ているものだろう。  そりゃそうだ。  クラスメイトには嘲笑されるか無視されるかの二択で、隣からはつねにピリピリとした威圧感を感じなくてはいけない。  小学生のときも、朝陽はこの手の腹痛に悩まされたことがある。  加入していた地域の青少年サッカークラブに行く時だ。  あの時は退団したことですぐに治まったが、今回はどうにもできない。 (いつまでこんな目に遭わなきゃいけないんだろう……)  朝陽はわき腹を抑えながら授業に意識を戻した。  すでに自習によって高校2年生の学習内容を終えている朝陽にとって授業はあまりに退屈で、痛みが余計身体に響いた。
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