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 私は感謝とともに浮かんでくる涙を見られないように拭うことで精一杯となった。冴子さんはにこりと笑い「大丈夫」とうなずいた。  冴子さんは私たちの事情、もとより分かっていたんじゃないかと言う気がしてきた。後部座席で謙斗くんがどっちがいいかとカードの箱をふたつ真尋に差し出している。真尋は悩みに悩んだ末、向かって右側、謙斗くんの左手に持たれた箱を貰った。 「よし、じゃあ後で開封の儀な!」  謙斗くんがそう言うとふたり、顔を見合せキュッとイタズラに笑う。  今の顔、カメラに収めて起きたかった、なんて不意に思った。でもシャッターチャンスは逃してしまったので、せめて自分の瞼の裏に焼き残して置いた。  連れてきてくれたのは昔は栄えていたプールらしい。今では少子化の煽りを受けてかすっかり“穴場”に成り下がってしまったという。  昔は小さな屋台がたくさん出ていてお祭りの雰囲気すらあったというプール、子どもだけではなく若いカップルのデートにも使われていたそうだ。
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