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「真尋、行っちゃいました」  待合室の椅子にへなりと座り込み、力なく笑った。全ての力が取り払われた、そんな感じの脱力感だった。 「それ、なに?」  右手に握りしめていたもの、自分でもなんだかわからず目の前に持ってきた。それは名刺だった。こらから真尋が行くであろう施設の、名刺だった。  私は途端にさっきまで色味を失っていた双眸がモノクロからカラーに変わっていったのが分かった。  冴子さんも「これは」と私の腕に手が触れた。 「会えないかも、接近禁止命令とか出ていて、スタッフの人に荷物を渡しておしまいですよ」  私は一瞬期待はしたが、直ぐにそれを打ち消すように頭を振った。 「もしもこのとき真尋くんが出てきたらどうする?」  心臓が早鐘を打つ。微かに吐き気を覚えた。理性を取り戻し首を振る。 「真尋に荷物を渡します。それだけです」  そう言い病院を後にした。  まだじっとりとした重たい湿度をふんだんに含んだ夏の夜の風がぬるりと体に絡みつく。それは汗と混ざって実に不快に絡む。 「しっとだよ」  私は『湿度だよ』に聞こえた。
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