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 私の部屋から音が消えた。笑い声、泣きわめく声、怒ったような声、全てがなくなった。しんとして、がらんとして元々ひとりで暮らしていたはずなのにとてつもなく広く感じた。蝉の声が、いつもは意識もしない、ただの夏のBGMに成り下がっている彼らの声が今は私の救いだった。音が与えられて私の部屋は微かに色が戻る。  サファイヤのルースを買った。真尋が青が好きって言ってたから青を買った。単純だなって思った。だけど離れ離れになってもこの夏、ここが真尋の家だったことは確かでそれを私は絶対に忘れてはいけない。だから買った。値段は安いものから高いものまであって違いがよくわからなかった。カラットの大きさとか発色の違いとか教えてもらったけど、そういう専門的なものはよく分からなかったからなんとなく真尋っぽいのを選んだ。ネックレスにお仕立てしてもらった。
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