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 時間がない、話したいことが多い、まずは「元気でやっているか」その質問に真尋はこくんと首を縦に振った。次に「痛いことや辛いことはないか」と聞いた。これにも真尋は先程同様こくんと首を縦に振った。  よかった、安堵して真尋から離れた。 「じゃあ行くね、他には何もないね?」  穏やかにゆるやかに口角を上げ眦を下げた。真尋の顔が目の前にあって無意識にそんな顔になったのだ。真尋も似たような表情をしていたはずなのに急に少し曇りだした。 「なに? ヒーローBの配信が見れない?」  くすりと笑いながら茶化すようにそういうとむうと唇を尖らせて首を横に振った。 「じゃあなに? あっ」  さっきの職員さんがどこからか戻ってきている。もしかしたら私の正体がバレてしまったのかもしれない。 「ごめん、私もう行くよ、真尋、何か困ったことないね? お金は? 大丈夫? あれから桃は食べてないよね?」  真尋はその矢継ぎ早の質問にうんうんと大丈夫だと返した。私はうなずき踵を返そうとしたときだった。  真尋が私のシャツを引っ張った。 「なに?」  そして真尋は言った。かぼそい声で言った。
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