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聴き逃してしまうくらいの声で。
「寂しいです、加奈子さんの特製カレー食べたいです」
真尋の双眸からは今にもこぼれそうな涙が溢れていた。瞬きひとつでそれは簡単に落ちる。私の心臓は古いブランコのように軋んだ。揺れるたびにギシギシと音を鳴らすように息をするたびに体のどこか分からないようなところから断末魔のような叫びが溢れてくる。
職員さんが近づいてる、その表情は硬い。時間がない。
私はもう一度真尋を抱きしめた。職員さんの顔色を伺いながら抱きしめた。そしたら職員さんの眉が上がった。そして歩くスピードが上がった。
私は真尋の耳元に打ち明けた。誰にも聞こえないように、真尋以外誰にも、そんな音量で真尋に言った。
「真尋、今夜抜け出せる?」
「はい?」
「加奈子の特製カレー食べよう。うずらたくさん乗せてさ、用意しとくから」
「食べたいです!」
「誰にも見られず出てこれるようになったら出てきて、私は何時までも待ってる、失敗しそうになったら無理はしないで、明日の夜も待ってるから。一緒に――帰ろう」
真尋の手を掴んだ。
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