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「真尋、施設に戻ろう」
「なんで?」
真尋は不安そうな顔をした。
「お母さんが心配してる、ごめんね勝手に連れ出して」
「嫌だ、僕もうあそこに戻りたくないです」
真尋は涙をいっぱいにためて私から逃げる素振りを見せた。電話はいまだに鳴っている。誰からかは分からない。電源を落とす。もう一度真尋に説明する。
「私は真尋と一緒にいてあげることができないの、ごめんね」
すると真尋が信じられない言葉を発した。
「加奈子さんも……僕を捨てるの?」
猜疑心に満ち溢れている眸、真尋は私をキツく睨んだ。
「そんなことないよ、誰も真尋のことを捨ててないよ」
「嘘だ、お父さんだっていなくなった。それは僕を捨てたんだ、お母さんだってのんちゃんの方が大切だから僕が邪魔になって捨てたんだ、加奈子さんだって僕のことが邪魔……」
「違う! 違う!」
真尋を抱きしめて絶対に違うと言った。真尋は泣きじゃくり感情のコントロールができなくなっていた。私はゆっくりと真尋の背中を撫でた。「違うよ、違うよ」何度も落ち着く呪文のようにそう呟いた。
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