八年後

1/5
前へ
/90ページ
次へ

八年後

「いらっしゃいませ、おふたり様ですか? こちらのテーブルにどうぞ」  八月のランチタイムはいつもより忙しい。仕事中の常連さんはいつも通りでその上親子連れも多くなる。もうすぐピークの時間が終わる。一段落といったところだ。   「これ三番テーブルさんにお願い、終わったら休憩入っていいよ、悠里(ゆうり)と出てくるだろ?」 「うん」  出来上がった料理を三番テーブルに運ぶ。それと同時にCLOSEDの看板を出しに外に出る。今日も無事大きなトラブルもなくピーク時の食事の提供ができた、この瞬間、私はいつも首から下げているサファイヤのネックレスに触れる。そして口角を上げる。 「あ、閉店ですか」  CLOSEの看板を持ったまま首を振る。 「いえ、どうぞ」 「わ、ギリギリセーフですか? ありがとうございます」  二十歳前後の爽やかな笑顔の青年。この笑顔、どこか懐かしさを覚える。 「新規一名様ご案内いたします」  そう言うと恨めしそうな顔をしてこちらを睨んでいる子がひとり。 「ごめんごめん、ちょっと待ってて」  そう言うと子は唇を尖らし片付け途中のカウンターの椅子に腰掛けた。  
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加