風邪のお世話

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*** 狩野さんマンションにはすぐに分かった。 インターホンのボタンを押す。緊張するなぁ…… 少し間があってから、狩野さんの「……はい」と言う少し枯れた声がインターホンから聞こえてきた。 「すみません、制作部の草薙です。ハンコがいります。書類もってきました。」 「……あー…あのミカド宝石の印刷の事かな?ちょっと待って」 しばらくすると、狩野さんがドアを開けた。 「ここ風つよいから玄関に入ってくれる?」 確かにここは20階建ての18階。エレベーターで見た。少し一回より風が強いのはわかる。 「お邪魔します」 「すぐ終わらせるから、ゴホッ…」 「大丈夫ですか?」 狩野さんは、イケメンだ。そして186cm高身長。 どこの部署の女子も彼を見たさに営業の部屋に来たがる程。まあ、私も彼を目の保養……とは思うけど、恋愛な気持ちはない。 しかし、黒髪が乱れているのと、Tシャツとジャージでいるのが新鮮…… いや、まぁ病人にこんな言い方をしてはいけないと思う、けど。綺麗な顔なんだもん。 でも、いつも整えられている髪と、スーツ姿しか見たことがなかったから、少し生活感を見たと言うか、弱っている彼が可愛く見える。 狩野さん、こんなこと考えててごめんなさい。 でも、許して。 Tシャツの上からでもわかる盛り上がる胸筋が素敵。 それに、狩野さんの顔のパーツは形が良かった。 シュッとした眉、切長の目、それを縁取った長いまつ毛、高い鼻、綺麗な唇…どれをとっても素敵なのだ。 しかし、さすがにツラそうにハンコをフラフラと持ってくる姿は可哀想で…… 「先輩…ご飯食べてます?」 彼は軽く書類を確認した後、書類にギュッとハンコを押してから、私をチラッと見る。 「……食べてない。病院から処方された薬は飲んでるよ」 「食べなきゃ。ご飯はありますか?何でもいいから口に入れて…」 「そうもしたいけど、、じっと立ってるのがツラいんだよ……料理が作れない。ゴホッゴホッ! はい、書類。うつるとアレだから、早く帰ったほうがいい。わざわざ、営業の仕事なのにありがとう」 狩野さんは、私の前に書類をだした。私は受け取る。 良かった。とりあえずハンコは貰えた。 「……狩野さん、ゆっくり寝てて下さい。私、定時になったらここへ戻ってきますので、お腹に優しい物、適当に置いていきます」 「いや、そんな大変な事いいよ、面倒だろうし」 「いいんです、早く営業に先輩が戻ってくれないと、営業がバタバタしてるみたいだし…… あ、どうしても嫌ならいいんですよ!押し売りはしたくないので」 「……いや、押し売りと思ってないよ。うん、じゃあよろしく頼むよ、1人で限界だったから」 「あ、じゃあ、よろしくお願いします」 「じゃ、夕方ね……」 ボンヤリと話す狩野さんは私を玄関から出すと、パタンとドアを閉めた。
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