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狩野さんマンションにはすぐに分かった。
インターホンのボタンを押す。緊張するなぁ……
少し間があってから、狩野さんの「……はい」と言う少し枯れた声がインターホンから聞こえてきた。
「すみません、制作部の草薙です。ハンコがいります。書類もってきました。」
「……あー…あのミカド宝石の印刷の事かな?ちょっと待って」
しばらくすると、狩野さんがドアを開けた。
「ここ風つよいから玄関に入ってくれる?」
確かにここは20階建ての18階。エレベーターで見た。少し一回より風が強いのはわかる。
「お邪魔します」
「すぐ終わらせるから、ゴホッ…」
「大丈夫ですか?」
狩野さんは、イケメンだ。そして186cm高身長。
どこの部署の女子も彼を見たさに営業の部屋に来たがる程。まあ、私も彼を目の保養……とは思うけど、恋愛な気持ちはない。
しかし、黒髪が乱れているのと、Tシャツとジャージでいるのが新鮮……
いや、まぁ病人にこんな言い方をしてはいけないと思う、けど。綺麗な顔なんだもん。
でも、いつも整えられている髪と、スーツ姿しか見たことがなかったから、少し生活感を見たと言うか、弱っている彼が可愛く見える。
狩野さん、こんなこと考えててごめんなさい。
でも、許して。
Tシャツの上からでもわかる盛り上がる胸筋が素敵。
それに、狩野さんの顔のパーツは形が良かった。
シュッとした眉、切長の目、それを縁取った長いまつ毛、高い鼻、綺麗な唇…どれをとっても素敵なのだ。
しかし、さすがにツラそうにハンコをフラフラと持ってくる姿は可哀想で……
「先輩…ご飯食べてます?」
彼は軽く書類を確認した後、書類にギュッとハンコを押してから、私をチラッと見る。
「……食べてない。病院から処方された薬は飲んでるよ」
「食べなきゃ。ご飯はありますか?何でもいいから口に入れて…」
「そうもしたいけど、、じっと立ってるのがツラいんだよ……料理が作れない。ゴホッゴホッ!
はい、書類。うつるとアレだから、早く帰ったほうがいい。わざわざ、営業の仕事なのにありがとう」
狩野さんは、私の前に書類をだした。私は受け取る。
良かった。とりあえずハンコは貰えた。
「……狩野さん、ゆっくり寝てて下さい。私、定時になったらここへ戻ってきますので、お腹に優しい物、適当に置いていきます」
「いや、そんな大変な事いいよ、面倒だろうし」
「いいんです、早く営業に先輩が戻ってくれないと、営業がバタバタしてるみたいだし……
あ、どうしても嫌ならいいんですよ!押し売りはしたくないので」
「……いや、押し売りと思ってないよ。うん、じゃあよろしく頼むよ、1人で限界だったから」
「あ、じゃあ、よろしくお願いします」
「じゃ、夕方ね……」
ボンヤリと話す狩野さんは私を玄関から出すと、パタンとドアを閉めた。
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