風邪のお世話

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会社に戻ると、「ご苦労様!すぐ分かった?」と小林さんが笑顔で迎えてくれた。 「はい。すぐに分かりました。これ、書類です」 小林さんはハンコを確認すると、私にお礼を言って、下の階にある印刷工場に、書類を届けに行った。 私は制作部に戻り、今度は自分の部署の仕事を上司に仰ぐ。 「じゃ、このロゴの色考えといて」 「はい」 私は仕事をしながら、狩野さんの食事を考えていた。 まずお粥だよね…梅干しや、塩昆布、シャケフレークとかいけるかなぁ。あと、食欲があるなら、焼きたらことかも。 料理の腕前は普通程度で、決して凝った料理は出来ないと思う、けど、社内の誰かを連れていけば他のファン達が騒ぐといけないから、悪いけど1人で行きます。狩野ファン達よ、すまぬ。 と、心の中で思いつつ、仕事を何とか終わらせた。 そして、急いで帰る。 会社近くのスーパーで、適当に商品を買い、電車に乗る。二駅だし、駅近マンションだからすぐに着く。 とりあえず、グダグダに疲れてた狩野先輩。ゼリードリンクや、スポーツドリンク…これは、絶対に届けなきゃ。ご飯食べれなくても、少しでも栄養を…ね。 先輩の家に着き、インターホンを鳴らすと、再びヨボヨボと力なく出てきた。 「お疲れ…入って」 「お邪魔します」 大きな玄関、そして、広いリビング。 「広いですね」 「1人だからね、物少ないし」 「寝室はどこですか?狩野さんは寝てて下さい。あとで、スポーツドリンク持っていきます」 「あ、そこの扉が寝室。じゃ、俺寝てるわ」 「後ほど」 私はビニール袋から食品を取り出して、冷蔵庫に入れる。 お粥はレトルトのものをかってきた。レンジで温めている間に、寝室へ冷えたスポーツドリンクを持って行った。 とにかく水分とって貰わないと。コップとペットボトルを持って行く。 寝室のドアをノックすると、狩野さんがかすれた声で「どうぞ」と言った。 「失礼します。スポドリ持ってきました。冷たくて美味しいと思いますよ」 「ありがとう」 予めコップに注いでおいたものを渡す。 「ストロー要ぬります?」 「あ、あぁ、うん、お願いする」 狩野さんは、上半身を起こしスポーツドリンクを飲んだ。 喉が乾いてたのかな、ゴクゴク飲んで喉仏が上下しているのが見える。 「……ふぅ、ありがとう」 「ここ、置いときますね」 ベッドの棚の上にスポーツドリンクを置き、電子レンジのお粥を見に戻った。 少し暑すぎたかな? 梅干しとか苦手だったら困るから、小皿に別に入れよう。 とりあえず、今日は梅干しと塩昆布…。残りのたらこやシャケフレークは冷蔵庫へ、と。 寝室に戻ると、冷たいスポーツドリンクが良かったのか彼はグッスリと眠っていた。 長いまつ毛が伏せられている。 起こすの申し訳ないな、眠りも浅かったっぽいし… 私はラップをかけ、温め直して食べてくださいとメモを残した。 そして、自分のマンションに戻ることにした。 次の日。 営業の札をみると、今日もまた狩野さんは休みのようだった。 大丈夫かな、昨日、水分取っただけでまた寝るしか出来ないんじゃ… 私は居ても立っても居られない状態で、仕事が終わってから、また狩野さんのマンションにお邪魔する事にした。 仕事が終わってすぐ、彼の家に向かう。 インターホンを鳴らすと、すぐに出てきてくれた。 「昨日も.今日もありがとう。今日はホント来てくれて良かった。下のコンビニで買い物頼んでいい? 冷たか冷える枕みたいなんあるでしょ?あれ買ってきてくれない?お金昨日の分も払うから」 「いいですよ、他にも欲しいものあったら言ってください」 「きみ、草薙優」 「は?、え、はい」 フルネームでなに? 「前から気になってたんだ。風邪治ったらお礼にデート行こ」 「えー、ど、どうしたんですか、狩野さん。いつものクールなイメージと違う…ような」 「えー、そうだな、風邪のせいかも知れないけど、前から気になってたのはホントさ。んー…本当に風邪のせいでこんな事が言えちゃった。うー…でも早く風邪治したい。草薙ちゃんとデートしたい」 甘えん坊みたいに言う彼は可愛くて、私は柄にもなくキュンとしてしまう。 「枕.買ってきます!それから、他にも何か見てきますね」 ドアを閉め、エレベーターに乗る。 顔が赤くなる自分、鼻と口を両手で隠しても、耳まで熱くてコンビニで、変に思われるかも。 とりあえず早く言われたもの、渡さないと。 1人でドキドキしながら、買い物をする。 どうやって狩野さんの部屋に戻ろう…… しかし、戻ったら、狩野さんはスヤスヤと眠っていた。買ってきた枕を冷凍室へ入れ、お粥を作り、今日はシャケフレークとフライパンを借りて焼たらこを小皿に置いた。 メモを残し、自分のマンションに戻ったけど、夜、久しぶりに眠る事ができなくて、朝方ようやく眠った。 あくびを連続でしながら来た会社。 制作部から廊下に出ると、ポンと肩を叩かれる。 小林さんだ。 「この間はありがとな、おかげで今日から狩野が復活だよ!!」 ドキンと心臓が脈打つ。
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