風邪のお世話

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「よ、良かったです!じゃあ、私、ちょっと急いでるので、すみません!」 私は愛想笑いを浮かべるとその場を立ち去った。 全然急いでなんかないのに。 小林さんは何にも関係ないのに。 半分ボンヤリしていたと言うのも無きにしも非ず、仕事に集中していた私。 し、集中、集中。 や、やっぱ集中なんかしていません。仕事はしていたけれど、頭の中は、昨日の狩野さんが言ってたセリフが連呼されていた。 *** あっという間にお昼。 コンビニ弁当でも買おうとしていた私は、後ろから肩を叩かれて、見上げる。と、狩野さんだった。 「お疲れさんー、今日のランチ付き合って」 「えっ…狩野さん風邪は?」 「もう熱は下がったし、食後の薬飲めば大丈夫!限定ランチ無くなっちゃうよ。奢るから来てー」 「は、はい!」 *** 近くにあるフレンチ。そこにある、毎日20食限定ランチ。高いけど、美味しいのでよくお上品な奥様達がランチに来ている。私のような、少し大きめの制服の袖を捲り、紺のヨレヨレスカートなんてどこにいもいない。 恥ずかしい。 「ここにくるなら、もっとオシャレな格好してきたのに…」 「今度、一緒に来る時、そうしたらいいよ」 「え?」 狩野さんが私の問いには話しかけず、手を軽く上げた。 ウェイトレスがやってくる。 「この20食限定ランチお願いします、あ、草薙ちゃんも同じのでいい?他になんかある?」 「いえ、同じもので…」 「かしこまりました」 ウェイトレスが去った後、私は狩野さんに小声で言う。 「奢らなくても自分で出しますから!」 それに狩野さんは首を振る。 「いやいや、部下がね、仕事の為とはいえ、わざわざハンコの書類届けてくれたりだね、お金出してお見舞いでご飯作ってくれたりそんなことさせたんだからいいよ、これくらい」 と、いつもより上司感出してワザと話してくる。 私はクスッと笑った。 「おつかいくらい平気ですよ」 「じゃ、これからはキミの愛を運んで貰おうかな」 「え……?」 「イヤ?」 「嫌な訳……」 そこまで言うと彼の顔がパァっと明るくなる。 「キミだから部屋におつかい頼めたんだよ、ホントラッキーでした。やっぱり思った通り、優しいし、気が利くし…そして、何より可愛いよ」 「やっ!可愛いワケ…!」 そこまで大きな声をだして、ここが高級フレンチだった事を思い出す。 「か、可愛くないですよ…」 今度は小さな声で言う。 フフッと狩野さんは笑うと、「そんなとこも可愛いし」 と言った。 恋愛感情はないと思っていたのに、昨日からおかしい。キュンとしたり、恥ずかしくなったり、驚いたり。嬉しくなったり。 色んな感情が目まぐるしくやってくる。 もしかして…… これが恋ってヤツでは…… 「ねぇ、草薙ちゃん、下の名前で呼んじゃダメ?」 長いまつ毛の下から、私を見つめる目はオニキスのように真っ黒で、すぐに私は惹かれてしまった。 「い、いいですけど…」 「良かった。俺のことも譲って呼んでいいよ。 ね、一回呼んでみて」 「や、その、は、恥ずかしいです、し。」 「くー!可愛いね、優は!」 もう優呼び。早い。 「俺、風邪まだ完全には治ってないからさ、治ったらお見舞いじゃなくて、遊びに来てよ、俺ん家。今度はちゃんとお茶でも用意するしね」 「あ、是非遊びに行かせていただきますね。ウチより広くて快適ですし、あの大きなテレビでお菓子見ながら映画みたいです」 「お、それいいね!今度それしよ、絶対来てね?」 「はいっ」 ーーーその時は、 お土産の他に、愛も一緒に届けたい。 一回ではなく、何度でも
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