風邪のお世話

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「しまった!あいつのハンコがいるんだった!」 小林班長の、悔しそうな声が響く。 私は草薙優(くさなぎゆう)。22歳。 ここの会社、小さな印刷会社に入社して数ヶ月。まだまだ新人。 そこの制作部に所属している。 たまたま営業の部屋に来てみたら、小林さんが叫んでいるのを見てしまった。でも、私には関係ない。 コピー紙をガッツリ持って、そそくさと部屋に戻ろうとしたときだった。 「草薙ちゃん、今、ヒマ!?」 小林さんの声が再び響く。 「えっ!?いや、まあ、その………ヒマと言えば…」 「ごめん、ちょっとお願いがある。風邪で休んでる、|狩野譲(かりのるずる)のハンコを貰ってきて欲しい」 「えぇっ!」 「営業みんな忙しいんだよー、制作も忙しいの分かってるけどさ、キミは手、空いてるだろ?」 「は、まぁ、そうですけど…」 狩野課長と小林さんは同期だけど、狩野課長のが昇進が早かった。だけど、いつも一緒にいる仲の良い友達同士である。2人とも28歳。 確かに、私はみんなの仕事をちょこちょこ手伝うしかできない、新人… 多分、小林さんが制作部の人に声をかければ、「いいよ」という返事が返ってくるだろう。 「ちょっと、制作部の部屋行こう。田辺次長に話してみよう」 「小林さんっ!うわっ、ちょっと…」 ズンズン廊下を進んで行く小林さんを追いかける。 「田辺部長ー!小林っす。ちょっと宜しいでしょうか?」 「あんだよ、忙しいのに。どしたー?」 ほらね、うちの部署だって忙しいんだってば。 「草薙さん、借りていいっすか?超高速な仕事がはいって…」 「いいけど……草薙、営業の仕事大丈夫なのか?」 「いや、だれでもできる仕事なんで」 「じゃあ、少しくらいなら…草薙、大丈夫かー?」 「あ、はい…」って言うしかないじゃん! 「ありがとうございます!」 結局営業に連れて帰られる私…… 「ちょっと待ってろよ、草薙ちゃん」 メモ紙にペンを走らせる小林さん。出来上がると、私に見せる。 「住所ここ。こっから近いよ、最寄駅からふた駅だ。風邪で熱が高いって言ってたけど…ハンコを貰わないとこっちも時間やばいから、何とか貰ってきてくれる? 悪いね」 「……はい、頑張ってみます…」 と、元気なく、書類を持って会社を出発した。 書類はとても大事な契約のものだ。きっちり、狩野さんに届けて、それから持って帰らないと。
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