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「あっ」
もう一つの写真に目を移したとき、思わず声が出てしまった。
観覧車をバックに姉と僕が並んで映っている写真は、誰が見てもただの家族写真に思うだろう。
僕と、そしてきっと姉を除いては。
「どうしたの?」
グラスいっぱいに注がれた麦茶を持った姉がキッチンから戻ってきた。
なんでもないよ、と言ってグラスが置かれたテーブルに座る。
何かを流し込むように麦茶を一気に飲み干すと、冷たさが喉を駆け抜けお腹のあたりをきゅっとさせた。
椅子にかけていたベージュ色のカーディガンを羽織り、僕の向かいの席に座った姉。
テーブルの真ん中に置いてあったポットを手に取りカップに傾けると、淡赤色の液体とともに甘い香りが漂ってくる。
「今でも飲んでるんだ」
「あんまり飲まないようにしてるんだけど、やっぱり飲んじゃうね。それに生八ツ橋には紅茶があうもん」
テーブルに肘をついたまま両手でカップを手に取って口へと運び、目を瞑っている。
この飲み方も、一緒に住んでいた頃と変わらない。
だけど。
変ったのはフェミニンな服装と、否が応でも目に入ってくる左手の薬指に固くはめられている銀色の指輪。
そして、傍らに置かれた一枚の紙切れ。
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