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「仕事には慣れた?」
「入社して4か月も経ったし、なんとかやってるよ」
「そう言えばさ、どうなの?」
「何が?」
「何がって、彼女のことよ」
ああ、そうだった。
1月前に電話で今日の要件の依頼を受けたとき、話の流れのなかで同じ会社の同僚に告白されたことを伝えていた。
「どんな子なの?」
姉ちゃんと同じくらいの背だとか、姉ちゃんとは違っておとなしい子だとか、家族で行ったテーマパークに2人で遊びにいったとか、言えばよかったのに。
「実はさ、ちょっと距離を置こうってなったんだ」
えっ、という表情を浮かべる姉。
「なんで? 早くない?」
「なんていうか、一緒にいても彼女の気持ちに応えられそうにない気がして」
「なんなのそれ。ちゃんと向き合ってあげなよ」
詰問するような目を向ける姉を見て、急に腹が立ってきた。
なんで姉ちゃんに、そんなこと言われなきゃいけないんだよ。
「初めての彼女なんだから、大事にしないとだめだよ」
僕の気持ちを知らないで、なんてこと言うんだよ。
投げかけられる言葉に、麦茶を飲んで冷めたはずの身体が熱くなってくる。
飲み込んで胃の底に埋めた何かが、再び芽を出しするすると喉に向かって登りはじめてきた。
言ってはいけない。言うべきじゃない。
理性が必死に止めようとしたが、無駄だった。
「忘れられないんだよ。あの日から、姉ちゃんのことが」
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