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「別によかったのに」
行きの新幹線の駅で買ってきたお土産を受け取りながら、姉は僕を家の中へと導いてくれた。
お願いがあるから来てほしいと頼まれたからといって、初めて訪れる住まいに何も持っていかないわけにはいかない。それに、姉の喜ぶ姿を見たかった。
腰掛けるように肩にかかる髪のゆるく巻いた茶色の毛先が、脚の動きにあわせて風に揺れる花のように思い思いに跳ねている。
いつぶりだっけ。
見慣れていたはずの黒い髪の変化と成長に、時間と空間の距離を感じずにはいられなかった。
短い廊下を抜けると、思っていた以上に広々としたリビングにたどり着いた。
白を基調とした室内には新調したばかりと思われる家具が並んでいて、清潔感に溢れている。
真夏の屋外をよそに、壁のエアコンが涼しい風と使い始めたばかりの独特の匂いを運んできた。
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