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自分を絵本のお姫様だなんて思っているわけではなかったとしても、あの絵本の王子様ではなく、迷わず隣の犬を選んだ彼にこんな感情を持っているはずなどない。
そう、彼が私のよく知っているジェイクならば。
「……ジェイク、よね?」
握られたままの右手ではなく、今度は反対の左手を彼の犬の仮面へと伸ばす。
また拒否されたらどうしようと思ったが、今度はそんなことはなく少し硬い革で出来た仮面に指先が触れて安堵した。
そして仮面の下から現れたのは、やはり私の確信通りジェイクだった。
そのことにほっと息を吐いたのも束の間、彼の瞳が仄暗く揺らめき弧を描く。
「っ」
この十年間いつも一番近くで見てきた私の可愛い犬であるはずなのに、その表情はこの十年間、一度も見たこのとない色を宿していた。
(こんな顔、知らない)
ジェイクなのに、ジェイクじゃない。
仮面の下から現れたその男性に、私は思わず息を呑む。
「エリーの周りには僕しかいません。だってずっと見張っていたから」
くすりと笑いながら告げられるその言葉にドキリとした。
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