1.あの日の思い出

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 その後のこともあっさりとしたものだった。  長く伸ばしていた髪が切られてしまったことは少し悲しかったが、だが髪はすぐに伸びる。  それに何より、いじめられていた少年が泣きながら家まで謝罪に来たので私は何でもないことだと笑い飛ばした。  彼は私の二歳下の隣の侯爵領の男の子で、彼をいじめていたのはその領地に遊びに来ていた分家の子だったらしい。  本家に生まれたというだけで享受できるものが大きく変わるため、ただただ本家の子を妬んでいたのだろう。  貴族社会ではよくある定番の理由だ。  そこに私が飛び込んだので、彼を驚かすつもりで持ってきていたハサミを使ってしまったのだという。 (その子、終りね)  子供ながらに私はそう思った。  乱入したのは私の方だとはいえ、私だって伯爵家の令嬢。その令嬢の髪を切り、しかも本家の子をいじめていたことも明るみになったとなればそれ相応の罰は免れない。  今も謝罪に来ているのが彼だけだというところを見ると、もう既に領地から追い出された可能性すらある。  ごめんなさい、を繰り返す少年は、私がその時読んでいたお気に入りの絵本の表紙を見て更に俯いてしまった。
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