1.あの日の思い出

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『そもそも僕は王族ではないので王子にはなれません』なんて正論を言われたが、私だってただの伯爵令嬢。絵本のお姫様とは髪色が同じなだけでお姫様になれる訳ではない。  だがどう説得しても彼は意思を曲げなかった。 『皆を守りたいんじゃないんです。ご主人様はひとりでいい』なんて真剣に告げられれば、私はご主人様になんてなりたくないんだけど、という本音を言うのは躊躇われ仕方なく頷いた。  そして私が飼い主になった幼いあの日から十年。  無事に二十歳へとなった私は、あの時のお姫様と同じように赤茶色の髪をハーフアップにして編み込んだ髪型が乱れることも気にせず頭を抱えて机に突っ伏していた。 「どうして私には夫も婚約者もいないのよーッ!」 「ま、焦ることじゃないんじゃない?」  私の嘆きに雑な返事を投げるのは友人であるルツィエ・ヴィントロヴァー子爵夫人だ。 「自分は結婚してるからって!」 「それはそれ、これはこれ」  あっさりとそう切り捨てたルツィエに私は思わず唇を突き出し拗ねた表情を作る。 「いっそ政略結婚でもさせてくれればいいのに」  一昔前は当たり前だった家同士の結婚。
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