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墓荒らし
俺の仕事は形見屋だ。
形見屋とはダンジョンで力尽きた探索者の遺品を遺族に届ける仕事だ。
遺品には武器、防具、衣服、装身具、身分証などがある。これらはダンジョンが消化しきれなかった残り物だ。
金銭や宝石など金目の物は形見屋の取り分となる。
届けた遺品は遺族にただで渡すわけではない。買戻しの優先権を与えるだけだ。
買い戻されなかった遺品は形見屋の物になる。
そうやって、俺は日々の暮らしを立てているのだ。
「ちきしょう! この墓荒らし!」
頭に血が上った遺族が俺に平手打ちを食わせて、家から追い出した。
逆恨みという奴だが、気持ちはわかる。
形見屋は墓荒らしと世間から忌み嫌われる職業なのだ。
俺は張られた頬をさするついでに、無精ひげを撫でる。形見屋を始めてからいつの間にか染みついた俺の癖だ。
俺の親父は探索者だった。ダンジョンに潜って消息を絶ち、ひと月以上も行方がわからなかった。
残された俺たち家族は親父の生存を諦めることもできず、ただ帰る日を待ち続けるしかなかった。来る日も来る日も、揺れ動く心を持て余す生殺しの日が続いていた。
その時、一人の形見屋がやってきた。手には親父の身分証と、武器、防具、衣服の包みがあった。お袋は親父の衣服を買い取り、親父の死を受け入れた。
形見屋は懐から小さな包みを取り出し、お袋に差し出した。
「弔ってやってくれ」
包みの中身は親父の指の骨だった。
大きくて強かった親父は、小さな骨になって帰ってきた。
泣き崩れるお袋の横で、形見屋は俺に一振りのナイフを差し出した。
「こいつは俺からお前にくれてやる」
小さかった俺には何のことかわからなかったが、それは親父の形見だった。うちにはナイフを買い取る金もなかったので、形見屋は自分のものにしたそれをくれるといったのだ。
「親父の分まで強い男になれ」
形見屋はそういって、去っていった。
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