誰に返せばいい?

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誰に返せばいい?

 俺はダンジョンに潜った。  持ち主がわからぬナイフを懐にして。  俺は形見屋だ。探索者ではない。  ダンジョンに巣食う魔獣を相手に戦い抜く実力など持っていなかった。  斥候役なら身の軽さと探知能力。  盾役なら体の大きさと膂力。  剣士は進退自由な足さばきと剣技。  魔法使いは離れて魔獣を倒す、神秘の魔法。    魔獣を相手にする探索者とは、常人と異なる特殊能力を身につけた「選ばれし者たち」だ。  俺に特殊能力なんてものはない。そんなものは「コネ」か「カネ」がなければ身につけようがないのだ。  俺は吐きそうになる緊張の中、周囲の気配をうかがいながら、魔獣との遭遇を避けてダンジョンを進んだ。  やがて、ルードが死んだ現場にたどりつくと、物陰から三人の探索者が姿を現した。  ご苦労なことに、どうやらここで俺を待ち構えていたらしい。  三人とも盾と剣を携え、鎧をまとった剣士姿だった。   「よう、形見屋。余計なことをしてくれたな」 「何のことだ?」 「そのナイフだ。お前が持ち主を探し回ったおかげで、こっちの立場が危なくなった」  刺すような眼で睨んできたのはリーダー格の男だった。 「つまりこのナイフはお前の物で、お前がルードを殺したということだな?」 「いや、ナイフはお前の物だ」  男はそういうと、仲間に合図して三方から俺を襲ってきた。  低級な魔獣でも持て余す俺に、探索者三人を相手にすることなど無理だ。俺は早々に逃げ出すことにした。  思い切り跳び下がり、足元に煙玉を投げつける。煙玉に殺傷力はないが、音と煙が轟轟と上がる。  形見屋の俺にとっては魔獣除けの商売道具だ。  でかい音というものはそれだけで人の度肝を抜く。三人が驚愕して固まっている間に、俺は脱兎の如く走り出した。  続けざまに煙玉を破裂させながら、俺はジグザグに走って逃げた。
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