この手紙が届きますように

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 自転車に跨りながら、一瞬空を仰いだ。今日も雲一つない快晴。空の明るさが心の中まで染み渡り、今日も悲しみに包まれて藍色だった心の中を照らす。そして今日も明るい気持ちで仕事を始められる。  昨日と同じ、決まったルートで手紙を各ご家庭のポストに投函していく、僕の仕事は郵便配達員だ。ひとつひとつの手紙の内容は分からないけれど、きっとどれもが書いた人が受け取る人を頭に描き、一文字一文字思いを乗せて、相手に届いて欲しいと願ってポストに投函したもの。だから僕は、全ての手紙を大切に取り扱うように心がけている。 「あれっ?」  いつものように角の家のポストに手紙を入れて、次の手紙の宛先を確認すると、僕の受け持ち区域から少し離れた地区の住所と田中誠という宛名が記載されている。何となく見覚えのある名前だなと思い、自分と同姓同名であることに気がつき思わず苦笑してしまった。    手紙の分配のときにミスったのか、なぜ自分の担当分に紛れ込んでいたのか疑問を感じた。改めて住所を確認すると、担当地域ではないと言っても今いるところからなら、自転車で五分もかからない住所だ。この後、郵便局に戻ってしまうときっとこの手紙が届くのは早くても明日になってしまうだろう。もしかすると急を要する手紙かもしれないし、自分と同姓同名の人への手紙に親近感と好奇心を抱き、ルートを外れて手紙の宛先にある住所を目指した。
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