この手紙が届きますように

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「そのときは、手紙の中に書いてあるかもしれないから、申し訳ないんだけれど封筒を切って中身を確認するんだよ」 「えっ、お父さん、舞衣がお友だちに書いたお手紙読んじゃうの?」  舞衣が大きな目をさらに大きくして僕をまっすぐに見つめてくる。二年生とは言え、プライバシーの侵害には厳しいらしい。 「ははは、中身は読まないよ。書いた人の住所や名前があるか確認するだけだよ。お父さんは、お父さん宛ての手紙しか読まないよ」  そっか、わかった、舞衣は安心したのか笑顔でそう言って、お母さん、ジュース飲みたいと言いながら妻の元に走っていった。  宛先不明郵便はどうしても出てしまう。それは転居だったり、亡くなられていたり、理由は様々だ。それでも、思いの込められた手紙を何とか届けたい、その使命感で申し訳ないとは思いながら封を切って中身を確認することもあるのだ。 ◇◆◇◆  念のために再度裏面を確認して送り主の情報がないことを確定させた。丁寧に封筒の中に入っている便箋を取り出す。右下に自転車のイラストのある、薄い水色の綺麗な便箋だ。二枚ある便箋の二枚目の最後に視線を落とす。便箋の方に送り主の情報がある場合は、だいたい最後に書かれているからだ。  そこには、綺麗な文字でと書かれていた。宛先が僕と同じ田中誠で、送り主が娘と同じ田中舞衣。こんなことが偶然で起きるとは思えない。  これは、舞衣が天国から僕に送ってきた手紙なんじゃないか。そんな考えが頭の中を逡巡する。そして、導かれるように僕は郵便局に入職してから初めて、宛先不明郵便の中身に目を通した。
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