この手紙が届きますように

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あの日、交通事故にあったあの日、お父さんを見つけて嬉しくて、道路に飛び出した私と私を止めようと道路に飛び出たお母さんに気がついて、私たちを避けた車はお父さんに向かっていって、それで。 ごめんなさい。本当にごめんなさい。私のせいでお父さんが命を落とすことになってしまって。 お父さんの働いていた郵便局に、いつも同じ時間に郵便配達をしている幽霊がいると噂になっていました。その幽霊はいつも同じ交差点まで来ると、立ち止まってそのまま消えていくんだって。その交差点は、あの横断歩道の交差点。私はその噂を聞いた時に、お父さんだと思いました。もしかしたら、お父さんは死んだことに気がついていないんじゃないかって思ったの。 それとね、お父さんの郵便局にはもう一つ噂があるの。お父さんの幽霊がいるからかもしれないけれど、に手紙を届けられるんだって。私は今のお父さんの住所は分からない。だから、今は壊されてしまった私たちが住んでいたアパートの住所で手紙を出しました。お父さんがそこで気がついてくれればいいんだけれど、もし気が付かなくても、送り主名を封筒に書いておかなければ、封を切って中を確認してくれるんだよね。お父さん宛ての手紙は読んでくれるんだよね。小さい頃にお父さんから教えてもらったこと、まだ覚えてるんだよ。だから、私はこの手紙の最後に田中舞衣と私の名前を書きました。さすがに愛娘の名前は幽霊になっても忘れないでしょ。 この手紙がお父さんの手元に届きますように。 宛先不明郵便として、お父さんが読んでくれますように。 そして、お父さんが早く楽になって欲しい。いつまでも幽霊になんかでいないで。早く成仏して、私とお母さんのところに帰ってきて。毎日、仏壇にお父さんの大好きだったプリンを供えているんだから。 お父さんに会いたいよ。 お父さんと話したいよ。 だから、お願い……  田中舞衣』
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