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「爽(僕の名前)、今度の日曜日、家に来なさい」
『家に来ない?』ではない。有無を言わさない呼び出しだった。そして僕はそれに、異論も不満も無く、大人しく従った。
だから、みんなが珍しそうに見渡しているこの部屋のことはよく知ってる。隣の部屋の壁のキズは、伯母とダーツをした時に僕が投げ損ねて付けた。小学4年の時の事だ。
負けていたので、意地になって思い切り投げたら外れて結構大きなキズになった。
意気消沈している僕に「何を気にしてんの、男が」と笑い飛ばした。早々に直すかと思っていたのに、いつまで経っても直さない。
「ここ直さないの?」1ヶ月ほどしてしびれを切らして言った。
「直したら、大きくなって生意気になった爽を『ここ傷つけたのだあれ?』って脅せないじゃない」
これはマズい弱みを握られた。伯母のいない間に直してしまえないか、と考えていると伯母が笑いながら言った。
「冗談よ。これは爽と楽しく遊んだ思い出よ」そう言って、壁のキズを撫でた。
リビングに集まった親族に弁護士が言った。
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