いただきます

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確かに、みんなを招くときはレストランか、自宅にケータリングを頼んでいた。家庭的なイメージが無いのだろう。でも、僕は何度も伯母の手料理を食べている。伯母はいつもこの茶碗でご飯を食べていた。 「誰かに食べて貰うために作るのって、楽しいわね」そう言って作っていたし、僕が手伝う事もあった。 あれは、中学3年生の時だった。 日曜日に伯母の手料理を食べていた。その頃、少しでも手伝いたいと、食事をごちそうになった後は僕が洗い物をしていた。 その時に、この茶碗を割ってしまった。 僕の「あっ」という声と、茶碗の割れる音に、ソファーに座っていた伯母が近づいてきた。 まだ、中学生だったが、伯母がこの茶碗を大事にしていたことは理解していた。 「ごめんなさい」素直に謝る僕に「わざとじゃ無いんだから、気にしないで」と言ってくれたが、あきらかにガッカリした表情だった。 二つに割れた茶碗と少しのかけらを集めて、「これ、不燃物(のゴミの容器)に入れていい?」と訊くと、「まだ、捨てないで」と言った。 「そのうち、私が捨てておくから」伯母が、付け足すように言ったので、僕は割れた茶碗を新聞紙で包んだ。
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