Aquamarine

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「立派な指輪……綺麗……ですね。この石は……アクアマリン?」 「そうです。アクアマリンの指輪です。その横に手紙が添えてあったんですよ『喜久子へ お帰り。誕生日おめでとう』……喜久子は私の母の名です」  宮川は指輪を見つめながら、穏やかな口調で語る。 「素敵なお父様とお母様ですね。さぞかしお母様も喜ばれたのでは?」  真凛の言葉に宮川は少し淋しげに笑った。 「それがね……その手紙に記された母の誕生日には……母は亡くなっておりました。その10日ほど前に。母の兄がフィリピンに住んでましてね。会いに行った帰りの船が……」 「……それって」  真凛は地図の一点を見つめる。  その船の話は…… 「まぁ、私は1歳でしたから母の記憶はないんですよ。遺体も見つからず……あの場所に母は眠っているのです。母方の祖母の話によりますと、母はアクアマリンが好きでしてね。あの頃は日本にもあまり流通していなかったでしょうから、かなりハイカラな人だったようです。結婚当初は父も貧乏で、婚約指輪も買えなかったんですよ。あの年、やっと買えたんでしょうね……」  しみじみ話す宮川を見て、真凛は宮川が何をどうしたいのか、なんとなくわかってきた。 「最近、そのダイビングで沈船(レック)ポイントって言うんでしたっけ? 流行っている事を知りまして……祐一さんを思い出したわけです」 「……そう……でしたか」 
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