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太陽が海に沈み始める時間。
Aquamarineと掲げた看板の店から若い女性が出てきた。
テキパキと作業をしている彼女の健康そうな小麦色の肌は店の白い壁によく映える。
「ふぅ……」
一段落ついたのか、彼女は深く息を吐いた。
本日、体験をした5人分のダイビング器材を洗い、干す。
女性1人でやるにはなかなかの重労働だ。
最後に自分のBCD……浮力補償装置を丁寧に洗う。
野中真凛
BCDに取り付けていたネームプレートが外れそうなのに気づいた。
いけない。あとで金具変えなくちゃ。
BCDを干した後、海水に浸かったフィンや水中メガネ等を洗い、手入れをする。
「店長、お疲れ様です。すみません、お先に失礼します」
店の中からバイトの早川奈江の声がして、真凛は腕時計を見た。
「お疲れ様。なっちゃん」
奈江に軽く手を振り、真凛は海を見ながら壁にもたれかかって座り込む。
規則的な波の音を聞きながら、ぼんやり夕焼けに染まった海を眺めていた。
昨日、母から手紙が届いた。
今となっては母ひとり子ひとり。
一人では心細いだろうに、そんな事は一言も触れずに、ただ『頑張んなさい』と。
真凛は深く溜息をつく。
ここ数年ダイビングの人気が廃れてきたからか売上が伸びず、店を維持していくのも苦しい状況だった。スタッフも事務のバイトを1人しか雇えない。
父が残したこのダイビングスクールをたたんでしまったら、母はどんな顔をするだろう……
でも……もう決めた事だ……
真凛はよいしょっと立ち上がり、ぱんぱんっと体についた砂を払う。
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