プライド

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 帰路、東京武道館の最寄り駅に向かう途中、肩を叩かれた。僕が慌てて部の皆から距離を取ると、香菜が笑顔を見せる 「お疲れ! てっちゃん」 「何しに来たんだ? こんなところ?」 「嫌だなぁ。もちろん応援だよ」 「どっちのだよ?」 「良いじゃん。どっちでも」  香菜はケラケラと笑った。 「カッコ良かったよ」  僕はちょっと黙ってから尋ねる。 「・・・コンビニに嫁に来る気になったか?」 「それはマジ勘弁」 「だよな〜」  僕は苦笑して快晴の空を仰ぐ。 「高卒か。大卒は全員敵だな」  すると香菜がニコっと感じよく白い歯を見せた。 「てっちゃん。そういうところだよ」 「何がだよ?」 「てっちゃんが人生つまらなくしてるところ」 「ほっとけ!」 「でもって、横にいる私をいつも笑わせてくれるところ」  不覚にも赤面してしまった。香菜はまったくもってこしゃくな奴だ。 「フッフッフ。てっちゃん、青いねー」  香菜の笑みを含んだ声が五月晴れの空に吸い込まれるのを、僕は自分でも意外なほど清々しい思いで眺める。  あと一勝で変わったはずの人生。大学生になれたはずの人生。父さんと僕のプライドを目に見える形で守れたはずの人生。  でも、負けた後の人生だってきっとそう悪くない。  ーー僕が胸を張って歩き続ける限り。 Fin.
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