天井絵 プロローグ

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天井絵 プロローグ

 厳格で荘厳な広々とした部屋は、高い天井から天蓋が下がっている。 部屋の中央にキングサイズのベッドが鎮座していた。  静寂を保っていた深夜1時頃。  ベッドの上に横たわっていたブルーベースの透明肌を持つ青年の薄い唇から、甘い吐息が漏れ始めた。 「んッ・・・・う・・・」  色香漂う喘ぎは、誰もいない部屋に静かに響いた。  艶やかなプラチナブロンドは、男の腰よりも長く1つに束ねられている。  ツンとした高い鼻、シルバーの長いまつ毛は伏せられたまま、薄い唇はたまにくぐもった声を発した。  なめらかな絹のシーツの下に隠れた筋肉にキラリとした汗が伝い流れた。  青年は魘されるように喘ぎを噛み殺した。 誰だ。 誰なんだ、この私に【淫魔(呪い)】をかけたのはっ。  シーツの下に隠れた自身の熱杭は、雄々しく反り返っていた。  ひくひくと何かを期待しているかのように揺れている己に嫌悪しつつも、に与えられる快楽によって何も考えられなくなりそうだった。  しかし、その快感はなかなかにしつこいもの且つ達するほどの快感ではないため、不快感もあった。 「ッ、クソ・・・」 正直言ってうざったい。  アダムは真底嫌気がさしていた。 なぜなら定期的にこのような現象が起きるからだ。  シーツの下は。  だが、自身の熱杭はで慰められているのは間違いない。 そうでなければ、睡眠不足で目の下にクマなど作る訳がないのだから。  臣下たちが心配するここ数日は、特に酷かった。 会議の最中だというのに、何者かに自身の杭を激しく擦られているような感覚に陥り、会議内容がさっぱり頭の中に入らなかったのだから。  誰かが自身の杭を手で上下に擦り上げているのでは。 そう想像すると、ムクムクと膨らんだ。 だめだ、変な想像するな。 冷静になるのだ。 この私が貞操感を律せなければ、この国は弱っていく。  天蓋の向こうに見える天井絵を見て、平常心を保とうとした。  天井絵はこの国の歴史が描かれている。  【妖精姫】と呼ばれる女人が聖人、つまりこの国の皇帝と並んで描かれている。 その下に臣下らが膝をついて祈っているのは、妖精姫がこの国に加護を齎す存在だったからだ。 しかし、ここ数100年この国に妖精姫は現れてはいない。  昔、妖精王が白鼠として人間の世界に迷い込み、イタズラをしていた。 だが、イタズラによって激怒した人間たちが白鼠を捕まえようと躍起になり、白鼠はとうとう人間たちに捕まり、沸々と熱湯の入った鉄鍋釜に入れられそうになる。 命乞いをしたものの、熱湯の入った鉄鍋釜に入れられてしまう。  妖精は鉄が大嫌いなのだ。 白鼠が妖精王だと知らずに、人間たちはしてやったと大喜びだった。  反省はしたが妖精王はしだいに怒りを覚える。 イタズラをしただけなのに、なぜ殺されそうにならねばならなかったのかと。  妖精王は鉄鍋窯の中で怒り狂っていると、1人の少女が白鼠を助け出した。  白かった体毛は怒りで真っ赤になり、弱りきった妖精王はいつか人間を殺してやると心に誓ったが、少女の献身的な看病に次第に怒りは落ち着いた。  彼女に妖精王だと正体を明かし、献身的に接してくれた彼女に感謝の印として妖精王の加護を授けた。  彼女の元を去った妖精王は自分の世界に帰り、妖精王から授かった彼女は人間たちに妖精のイタズラの対処法を教えてあげた。 『森を大切にし、動物に優しくあれば国は安泰する』と。 その話を聞きつけた皇帝がその少女と結婚し、国に妖精王の加護が宿る。 というものだ。  最後は後味の悪い話だと思った。 理由は簡単だ。  その少女は、皇帝を愛してなどいなかっただろう。 なぜなら、その白鼠を虐めた張本人だったから。 そして、虐めた皇帝の子孫は自分のことだからだ。
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