間奏:「次なる旅人」

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間奏:「次なる旅人」

雪の降り積もる北方の田舎町、その酒場で竪琴の音が響く。 昼の混雑を利用して吟遊詩人が小銭稼ぎを始めたらしい。 中央から視察に来ていたある官吏はつまらなそうに嘆息した。 彼は王に命じられるまま税収の思わしくない領主を訪ねる途中だったのだが、昨夜は吹雪に見舞われて、やむ無くこの安宿に立ち寄った。 無論、宿は中央官の満足するクオリティのものではない。 ベッドは固いし、食事の質も量も全く満足出来なかった。寧ろストレスで疲労感が更に増した気もする。 早く首都に帰りたい。 再度息をつき、彼は宿のカウンター辺りに気怠げに視線をやった。 そこにいるのは1人の吟遊詩人。 どこからどう見てもそれと分かる、いかにも安っぽそうな身なりの男だ。 宿にいる客たちは妙に湧いている。 それがまた彼に重い溜息をつかせた。 何をそんなに楽しみにしているのか。 田舎で聞ける歌など大したものではない。 歌を生業をしている以上、音痴とまではいかないだろうが、やはり首都の華やかな歌い手たちに比べれば、その腕前はかなり劣るだろう。 見れば粗末な旅装の旅人が吟遊詩人の側に寄り、何事か挨拶を交わしている。 見るに、恐らくあの旅人はこの吹雪の中、次の町へと向かうつもりなのだろう。 ご苦労な事だ。 多忙な自分と違って、根無し草の如き生き方をする旅人なぞに急ぎの用事などあるまいに。 ああいう命知らずな輩はいずれ何処かで野垂れ死ぬ事になるだろう。 だが、それはこの官吏の知るところでは無かった。 「それではまた、どこかで」 「どうかご無事で。良き旅を」 彼らは短い挨拶を交わす。 社交辞令を交わしている所を見ると、顔見知りという訳ではなさそうだ。 とはいえ、一夜の縁はあったのだろう。 自分にはどうでも良い事だが。 旅人は出て行った。 外は猛吹雪とまではいかないが、そこそこの量の雪が降りしきっている。 窓の外まで姿を追ってはみたものの、その姿はすぐに白い雪のカーテンに遮られ見えなくなった。 序奏か、ポロポロと鳴る竪琴は旅人の無事を祈る在り来りな送別曲の様だった。 旅人が去ると吟遊詩人は、さて。と気を取り直し周囲にリクエストを募り始めた。 至る所から声があがる。 周囲の人々は吟遊詩人に向かって身を乗り出し、あれが聞きたい、これが聞きたいと言い出した。 早くも手を叩いて囃し立てる者もある。 実に馬鹿馬鹿しい。 自分は一刻も早くこの場を離れ、仕事を終え、首都に戻りたいのに。 彼らほど暇ではないのだ。 それにしても、なんとも煩わしい雪なのか。 彼は苛立たしげに窓の外を睨んだ。 とはいえ、それで雪が止むはずもない。 外の雪が弱まるまでは彼もこの場に足留めされる事になる。 やむ無く遅めの朝餉を摂り始めると、吟遊詩人が声を掛けてきた。 「ご機嫌よう。中央の御方ですか?」 「なに…?」 「いえ、随分と洗練された身なりでいらしたので」 「フン、当然だ」 「こちらへはお仕事で?」 「…貴様の様な根無し草の詩人風情が、知った事ではない。話し掛けるな、不味い飯が更に不味くなる」 「おや」 官吏が手を振って追いやろうとすると、吟遊詩人は、それはそれは。と肩を竦め竪琴の弦を弾きだした。 「どうやら余りご気分が宜しくないようだ。…ふむ、ではここは1つ、気分の良くなる物語を語るとしましょう」 必要ない。 大きなお世話だ、放っておいてくれ。と思ったが、こちらから話し掛けるのも面倒だ。 放置しようと心に決めて貧相な食事に集中する。 吟遊詩人は気にもとめず歌い出す。 それでは皆様 暫しの間、お耳を拝借 これはある時 ある国の とある場所での物語…
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