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俺がトイレに行きつつ会計を済ませる中。
部長が締めの挨拶をし、一丁締めで会がお開きになっていた。
あーあ。タイミング、ミスったな……。
そう思いつつ、座敷に戻れば
『森川くん、酔い潰れちゃって。新人なのに。同期として恥ずかしいです。』
森川の同期の橘内咲苗が俺の腕を引いて上目遣いで俺を見つめた。そして、続けて
『穂積先輩、一緒に帰りませんか?』
橘内さんと俺は、全くの別方向に家がある。
『……逆方向だからなあ。』
やんわりと、断り文句を言えば橘内さんは唇を尖らせた。
人を比べるのはよくないが、橘内さんは森川と全く違う。
橘内さんは普段から早退・希休が多く仕事が頼みづらくて、俺にとっては苦手なタイプだった。
橘内さんはしばらく考えて
『じゃあ、もう一軒行きましょう。みんなには内緒で。』
なんて、俺のジャケットの裾を引っ張ってきた。
最高に困った。
俺には、最近まで恋人がいたがいつの間にか連絡が取れなくなり自然消滅。原因は俺が仕事を理由に彼女をほったからかしにしていたから。
そんなことがあってから女性と2人きりになる状況は避けている。
新しく恋人を作っても同じ轍を踏む気がするからだ。
きっぱり断ったら、何かと理由をつけて来週から会社に来なくなってしまうのではないか。橘内さんはプライドが高そうだし、充分あり得る。
どうやって断ったらいいものか。
そう、思っていたところ部長から森川を送ってくれと声がかかったのだ。
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