24人が本棚に入れています
本棚に追加
確かに森川は入ってきた時から、他の新入社員と違っていた。
仕事に対して積極的すぎるくらいだし、他の部署も平気で訪ねていくし、仕事を振れば十分過ぎるものを出してくる。
好奇心旺盛で、頭もいい。それに社交的だし、礼儀正しいから先輩や上司に好かれている。森川は俺より出来がいいと思う。
「だから、俺。きょうも穂積先輩に会いたかったんです。
いっしょに仕事させてもらって、その……彼女とのことは、早く忘れようって。……すみません、ズルくて。」
森川が、氷しか入っていないグラスをテーブルに置いて、少し寂しそうにする。
と、店員さんが顔を見せた。
「すいません、ラストオーダーでーす。」
森川と俺は思わず目を合わせた。
「森川、何飲む?俺、レモンサワーだけど。」
「あ、穂積先輩と同じです。」
俺も森川も、ずっとレモンサワーを飲んでいた。
「じゃあ、レモンサワー2つお願いします。」
「かしこまりましたー。」
店員さんがメモを取りつつ厨房の方へ向かっていった。
「森川。」
「はい。」
森川がなぜか背筋を伸ばした。
「ありがとな。」
「え。」
「俺に会いたかったなんて言ってくれるの…。今、世界中でお前1人だけだと思う。」
苦し紛れに笑って見せれば、森川がふにゃふにゃ笑い始める。
「俺1人だけだなんて。じゃあ、俺。穂積先輩のこと独り占めですね。」
「……そうかもな。」
「やったあ。」
独り占めって、さりげなくかわいいこと言うんだな。まあ、ちょっと酔ってはいるみたいだけど。でも、こんな森川を振るなんて。森川の元彼女はきっと後悔する。
「レモンサワー、飲んだら帰ろうな。森川。」
「…はい。きょうはありがとうございました。俺の話聞いてくださって。嬉しかったです。」
俺はお前の話ならいくらでも聞く。そう言いかけてやめた。
最初のコメントを投稿しよう!