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みんな流れるように座敷を出て、解散。
今、座敷に残っているのは俺と森川だけだ。
森川の寝顔。姉の子ども(男児3歳)みたいだ。
酔っているから顔は赤い。スースーと寝息を立てている。
試しに肩を叩いてみるが全く起きる気配がない。
「…おい。」
幸い、駅は近い。
森川は160センチ程度のチビ。森川をおんぶして行っても良いが……。
おんぶをしたまま、改札を通るわけにはいかないだろう。
体を揺さぶってみる。
「おーい、森川。」
「……へへ。」
寝ながら、笑っている。酔っ払いにも程がある。変なヤツだ。
……待てよ、起きてるんじゃないか?
「森川、帰るぞ。」
返事がない。森川は間違いなく寝てる。
いやいや、起きてもらわないと困るんだよ。
ペチペチと、ほっぺたを叩いてみる。
「もーりーかーわー。」
「…ん、え。…ん?」
半分瞼が開いたかと思えば。
「…へへ。…穂積先輩。…どうしたんですか?」
にっこりと笑う。そんな森川は酔いが覚めていないように見えて。
「あれ?皆さんは…。」
きょろきょろ周りを見て不思議そうな顔をした。漫画みたいなその仕草に思わず、ふっと笑ったが森川には気づかれていない。
「みんな帰ったよ。歓送迎会終了。俺たちも帰るぞ。」
俺は森川のビジネスバッグを差し出して帰宅を促した。
眠そうな目をぱちぱちさせた森川は
「なんかー、すいませーん。」
あくびをしながら起き上がって頭を下げたから
「本当にそう思ってんの?」
その頭を乱暴にぐしゃぐしゃにした。
「ふふふ。思ってますー。」
俺に向けてきた無邪気な顔は仕事中には見せたことのない顔だった。
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