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電車はギュウギュウに詰まってる訳ではないが、座るチャンスは皆無だった。
森川は眠さもピークなのだろうか、立ったまま寝てしまうのではないだろうかと思うほどうつらうつらしている。
「大丈夫か?」
「…俺、調子に乗りました。飲み過ぎです。」
「いいよ、反省しなくて。寝ないようにがんばれ。」
「……は……い。」
森川をドアから近い場所に立たせている。座席の角になっていて寄りかかれるからだ。
森川のすぐ後ろ。席の端っこに座っている男の人が森川をチラチラ見ている。
もしかしたら、森川が吐くのかもしれないと思っているのだろう。男の人は眉間に皺を寄せている。
『次は新丸子。この先、車両が揺れますので吊り革や手すりにお捕まりください。』
多摩川の橋を渡る前、ガタンと音を立てて揺れた。
森川が体勢を崩して、俺に倒れ込んできた。慌てたのか、森川は俺にしがみついていた。
「すみません。」
「いいよ。むしろ危ないから捕まってろ。」
他の人に、迷惑をかけるよりマシ。どうせ、俺たちのことなんか誰も見ていない。片手で森川の体を抱きしめるように支えた。
と、森川の後ろにいる男の人と目が合う。男の人は、目を見開いてから俺たちから目を逸らした。
たぶん、俺と森川がゲイカップルなんだと思い込んでいる。
森川が俺の胸に顔を埋めている。一瞬脱力するから、寝落ちしては起きていることがわかる。
俺はそんな森川を支えるのに必死で、周りからどう思われようと構っていられないと思った。
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