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元住吉。タクシーが捕まらず、仕方なく歩くことになった。
「穂積先輩…。」
「ん?」
森川を置いて行かないように、森川の服を掴んで歩いている。
「いくつまでに結婚したいですか?」
森川の鞄の中には、プロポーズを断られ出番がなくなってしまった婚約指輪が入っている。
「俺は結婚しないかな……。」
「そうなんですか?」
「恋人もいないし。」
「そうなんですか。」
終電を逃し、夜道を歩いている人は結構いて。
人々の群れから何気なく離れた男女がいかにもなホテルに入っていくのが見えた。
なんとなく目で追って、視線を進行方向に戻した。
「恋人、俺もいないんです。」
「ん?」
「知ってますか?」
「さっき、聞いたな。」
「別れたんですよ。」
「うん。」
「知ってましたか?」
「さっき、聞いたよ。」
森川は酔っている。俺もどちらかといえばそう。ぼんやりとした気持ちでいつつ、日吉駅でタクシーを捕まえて森川を帰さないとと思いつつ。酔っ払いの森川と言葉を交わす。
「穂積先輩。」
「ん?」
「婚約指輪、明日返品します。」
「お、おう。」
今、決めたのか?それ。
「つきましては」
つきましては?
「返しにいくの付き合ってもらえませんか?」
「……いいけど。」
どうせ、酔っ払いだから覚えてないだろ。
「で。そのお金で何か、美味しいものを食べませんか?たとえばお寿司とか。」
「おー、いいな。」
こんなこと話したなんて明日になればすっかり忘れているんだろう。
適当に返事して、話に付き合ってやれば森川の眠気も冷めるだろうし。
「森川、日吉駅でタクシー捕まると思うから頑張って歩けよ。」
「…はい。」
通り道に幾つかあるラブホテルの横を歩く。
俺たちの前を歩いていた男女や、後ろを歩いていた男同士、あるいは女同士が、そっちに向かって歩いていくのを数組見送った。
宿泊料金もそんなに高い訳でも無いし、その辺のビジネスホテルより広い。アメニティも揃ってるからカップルならラブホに泊まって当たり前。
横断歩道。信号が赤。眠そうな森川をチラッと見ると目が合った。
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