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東横線。自由が丘から横浜方面。いつもは座れないがきょうは、運がいいのか森川も俺も座れた。
森川は、ふわふわとしていて俺ではない隣の人に寄りかかりそうになっている。
しかも、女性に。
まずいと思い慌てて森川の服を引っ張って俺に寄りかからせた。他の人に迷惑はかけられない。
「ん?」
眠そうな顔をして俺を見てくる。
「他の人に迷惑だろ。お前、綱島だよな。大丈夫か?俺、日吉で降りるけど。」
森川、寝たまま終点まで行きそうだなって心配になる。
「……えっと、…はい。」
「綱島で降りられたら、タクシー使えよ?」
「……は…い。」
だめだ、森川がまた寝てしまった。
ていうか、なんか俺。コイツのこと面倒見すぎだよな。姉の子ども(男児3歳)と、なんか似てるからな。姉の子ども(男児3歳)が将来こうなったらちょっとやだけど。
『次は日吉。次は日吉。』
完全に寝落ちしている森川が俺の肩に頭を預けてスースーと寝息を立てている。
まあ、綱島まで送って、綱島からタクシーで帰ってくれば良いか。どうせ俺の家までワンメーターくらいだし。
日吉駅をやり過ごし、綱島まで送ることにした。
駅に着く前に起こさないと、そう思いつつ森川の顔を覗き見れば、瞼が開いた。
「もうすぐ着くぞ、綱島。」
「……すみません、ありがとうございます。」
「うん。」
「あの。」
「ん?」
「中華そば好きですか?」
「ん?」
「穂積先輩にご迷惑おかけしたのでシメのラーメンご馳走します。」
シメのラーメン……。思わず吹き出しそうになった。そう言えばコイツ、飲み会で料理全然食べてなかったな。ちょっと寝て自分の空腹に気付いたのか……。
「あの…俺となんか食べたくないですか?」
森川は、少しだけ不安な顔をした。精一杯の罪滅ぼしが受け入れてもらえなかったと思っているんだろう。
「いいよ、食べよう。」
「へへ。やったあ。」
ふにゃふにゃ笑うその顔も仕事中には見たことのない顔だった。
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