暖かな食卓

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 お母さまの返答に、声を洩らす僕。いや、何ら不思議なことはない。一番好きだと思った料理を伝え、それに対し感謝を伝えてくれて――うん、何ら不思議なことはない。ただ、思った以上に喜んでくれ―― 「……実はね、祈里(いのり)が作ってくれたの。あのおひたし。他のは私メインだけど、あのおひたしは祈里が一人で」 「……そう、なのですね」  そう、暖かな笑顔で告げるお母さま。右斜め前へ視線を移すと、そこにはポカンとした表情を浮かべる少女の姿が。中学三年生で、鮮やかな黒髪を纏う綺麗な女の子――そして、何処か東條くんに似た雰囲気が……うん、説明不要かとも思うけど東條(とうじょう)くんの妹さんです。  お子さんのことを褒められたことが、自分のことよりも嬉しい――そんなお母さまの心中が、その素敵な笑顔からひしひしと伝わってくる。だとすれば……いや、だとしなくても、僕のすべきことは―― 「……ありがとうございます、祈里さん。繰り返しになりますが、本当に美味しかったです」  そう、彼女の目を見て伝える。……いや、実際には少し逸らしちゃったけど。どうか、気持ちが伝わってますように。  
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