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捜査①
「死亡したのは城之内杏奈。二十代女性。死因は腹部を包丁で刺されたことによる失血死。死亡推定時刻は昨夜の二十時前後です」
新人捜査官の増田が淀みなく報告をあげる。
現場はアパートの一室。女性の一人暮らしらしく、質素なワンルームの中は被害者が好きだったと思われる可愛らしい小物が散りばめられている。
目に付くものと言えば、窓際にあるベッドとその脇のテレビ、周りについたライトが印象的な鏡台くらいか。
白と淡いピンクを基調とした部屋の中には争った形跡はなく、被害者は鏡台の前で、ベッドに寄りかかるようにして亡くなっていた。
俺は、第一印象で感じたことを新人に問う。
「自殺の可能性は?」
「鑑識の話では、包丁が刺さった角度から自殺の可能性はないそうです」
こちらが知りたい情報を事前に用意している優秀な部下は続ける。
「被害者には、一つ不可解な点があります」
「ほう、なんだ」
こちらをご覧ください、と手の平を被害者の手元へ向ける。
被害者は右手に何か小さな瓶を握りしめている。
「胃腸薬です」
「胃腸薬……」
そして左手を見ると、チューブタイプの塗り薬が握りしめられている。
「軟膏です」
「軟膏……」
死の間際になぜ、この二つの物を掴んだ?
この二つの物には何か意味があるのか?
これは、まさか……。
俺の思考を読み取った部下が言う。
「これは、ダイイングメッセージではないでしょうか」
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