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The lunatic dawn
ーーーー思えば。
あの朝も、こんな真っ赤な朝焼けだった。
神代の家から捨てられ、自分の存在のすべてを否定され、なかったことにされたあの朝も。
生きたまま冷たい土の中に埋められ、まるで地獄から蘇った死者のごとくそこから這い出たあの朝に見た、朝焼け。
あれを見たその時から、自分は生物の種としても、心ある者という意味の上でも、「ヒト」ではなくなった。
だから、これはーーーーそう。
ケモノか、鬼か、悪魔か。
どれなのかなどどうでもいいが、そのいずれかの、ただの本能。
「なあ、だからさ……」
足下の、赤黒いそれに向かってささやくのも、ただの気まぐれ。
「郁真はあれでもヒトだったよ。きちんと『復讐』っていう人間らしい殺戮の理由があったんだから。でもねーーーー」
それに向かって呟いたその時。
朝焼けがそれを照らし出した。
首元。胸から下腹部。頭部と顔面。
それらを引き裂かれ、中身を引きずり出された、かろうじてヒトの形をした、それ。
「これ……本能なんだ。つまりやりたいからやる。悪いね。まあ、文句あるよね。でも天国逝きか地獄逝きか知らないけど、クレームならそこの偉いヤツによろしく」
囁いて、ふと気づく。
手も、服も、顔も血で汚れている。屠殺の後だから仕方ないが、これではーーーー。
「かわいい兄弟に、こんなカッコじゃ会いに行けないな。それに、まだ腹も減ってる」
小さく、ため息を吐く。
「静馬。会いに行くの、ちょっと待って。もう少し腹ごしらえして、ちゃんと身だしなみ整えてから行くから。それから……」
自然に、笑んでいた。ただ単に楽しみだから。
「幼なじみの紅香ちゃんにも、会わせてね……?」
そして狂気の、夜は明けた。
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