愛が呼ぶ声がする。

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 *** 「……という状況で、治療はかなり難しく……」  たくさんの管に繋がれた俺。  集中治療室の前、真っ青な顔をして医者から説明を受けている監督や、同じサッカー部の友人たち、家族。  俺は何故か、その光景を天井の付近でふわふわと浮かびながら見ていた。これは、幽体離脱というものなのだろうか。 「恐らく、今夜が山でしょう」  山。峠、ということもある。ドラマで聞いたことがある。今夜死ぬ可能性が高いとか、まあそういう意味だったはずだ。まさか自分自身の“今夜が山です”を直に聞くことになるとは思ってもみなかったが。 ――マジかあ。  俺は、隣のガラスの向こうの集中治療室を覗き込んだ。おかしなものだ、今日まで俺は普通にサッカーをしていた。ちょっとだるいな、とか風邪ひいたかな、と思う程度の症状はあったがそれだけだ。  まさか、そんな長ったしい名前の病気を患っていようとは。それが、このタイミングで発作を起こそうとは。正直、聞いてもちんぷんかんぷんだった。どうやら俺の心臓が、俺が思ってないところで突然ダメになったらしいのだが。 ――これ、死ぬっぽいなあ。  ベッドの上。俺は、長身の体をぐったりと横たえて、死人のように目をつぶっている。さっきまで元気に走り回っていた人間のそれとは思えない。  だからなんとなく確信してしまった。どうやら自分は、ここで死ぬらしいと。 「嘘でしょ、(えい)……!」  母さんがお医者さんの前で、ついに崩れ落ちた。それを慌てて父さんが支える。 「嘘だって言ってくださいよ、先生。映は、助かるんですよね……!?」 「お、お願いします、兄貴助けてください!」 「俺からもお願いします、部長を死なせないでください!!」  兄が、部員たちが次々とお医者さんに頼み込む。お医者さんも気の毒だなあ、と俺は他人事のように思った。彼等だって、高校生の子供の突然死なんか看取りたくないに決まっているのに。 「全力を、尽くします」  当然、彼等に言えるのはそれだけだ。年配のお医者さんは気の毒そうに彼等を見回すと、頭を下げて歩き去っていった。廊下には、泣き崩れている母と、涙目になっている父と妹、茫然としている部員や監督が残されている。  正直、見ていて辛い光景だった。家族だけじゃない、自分のせいで、部員たちにまでなんてひどい迷惑をかけているのだろうか。突然部活の仲間が死んだなんて、そんな重荷大事な大会直前に背負わせるなんて。 ――なんとかならないかな。  できればこのまま自分が奇跡の復活を遂げられればいいのだけれど、それは難しそうである。どうしよう、なんてことを思っていたその時だった。 「お、おおおおおおおおおおおおおおお!?」  突然、ぐい、と体が上の方に引っ張られた。なんだなんだなんだ、と思っていると天井をすり抜け、病院の屋上を越え、どんどん空の高いところまで上っていくではないか。  これはもしや、昇天ってやつなのだろうか。  あっけにとられた俺は、視界が真っ白に染まるのを感じていたのだった。
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